先日のことである。
その男は、ちょっと遅めの時間から福岡で気心の知れる仲間と飲んでいた。
仕事の話題から、プライベートな話題、なぜかサンポー焼○ラーメンの話題で盛り上がった。
ビールから始まった飲み会も、2時間が経過するころは焼酎のボトルが空になっていた...
リーダー格の男が言った
「よし、そろそろ帰ろうか。次は○○○でゆっくり飲もう!」
「いいねぇ、決定!」
4人は一斉に立ち上がった。
店を出ると、その男は別れの手を振り、西鉄電車のホームへと駆け上がる。
ちょうど滑り込んでくる急行電車、その男のためにやってきたかのようだ。
その男は迷わず急行電車へ乗り込むと、タイミングよく椅子に座ることができた。福岡をこの時間に発車する急行は、なかなか座ることができない...
その男は、酔いがまわりつつも自宅最寄の停車駅時刻を確認し、携帯電話のアラームをセットした。
そう、乗り過ごし防止である。
その携帯電話を握り締め、万全の体制で眠りに落ちる...その男。
・・・
その男は、大きく体が傾いていることに気付き、目ざめた。
「・・・」
電車の速度が落ちていく、駅に到着するようだ。
しかし、見慣れた光景ではない...
車内のアナウンスが流れる...
「柳川に到着します」
「!!!」
その男は動揺したが、それを微塵にも気付かれずに電車を降りた。
そう、乗り過ごしたのだ。
アラームはどうした...無意識に止めたのか?
どれぐらい乗り過ごしたのか...
上の○印内にある久留米圏内の駅で降りるところを、下の○印にある柳川まで乗ってしまったのだ。
あまりにも快適な電車の旅だった。
その男は、約1時間の仮眠によるものか、乗り過ごした衝動のせいかは分からないが、頭はスッキリと目ざめ、事態を十分に把握した。
「しもた〜っ!!」
「ううむ、もう上りの電車はないのか」
何の表示もない電光の電車案内板、なんとも悲しい光景だった。
その男は考えた。
1) タクシーで帰る
2) 駅で仮眠して始発で帰る
3) 嫁さんを呼ぶ
・・・
「ふっ」
その男は、決心したかのようにau携帯電話を取り出し、手馴れた作業でEzナビウォークを起動。
そして自宅までの距離を計算する。
東京の単身赴任の頃は、目黒から蒲田、飯田橋から浜松町、日本橋から新宿といった都内を縦横無尽に歩いたその男。あれだけ交通が整備された都会をスーツ姿で歩いたその男。
なぜに飯田橋から浜松町まで...驚かれたものである。
そう、歩くのが好きである。
が、Ezナビウォークが示した距離は約20km(大汗)
1時間5kmで歩いたとしても、4時間!
「ふっ、こいつはちょっとハードだぜ」
その男の口元が引き締まった...が、全体には締まる顔ではない楽天的だ。
ただ濃いヒゲは、存在感をましている。
その男は歩き出した。
テクテク テクテク
歩く歩く
スーツ姿に、カバンを持って、Ezナビウォークの示すルートをひたすら歩く。
ま、行程の大部分は1本道で迷うことはない知った道(主要道)だ。
車で走るのと、歩くのでは見えてくるものが違う。
よく知るには「歩く」。
それが一番だと、その男は改めて思いながら
テクテク テクテク
歩く歩く
よりによって、カバンにはノートパソコン(私有物)に大型手帳が入っている。
大して重くなくても、時間がたてば次第に手のひらが痛くなる...
こんなことなら、ノートパソコンを自宅で開くこともなかったのになぁ
その男は空しい手ごたえを十分実感しつつ...
テクテク テクテク
歩く歩く
深夜、少ない交通量のライトが眩しい。
映し出されるその男、なぜにこんなところをこの時間に歩いているのか、疑問に思われたことだろう。
駅から近いならまだしも、終電時刻を大きく超えて、また主要駅から離れたところを歩くスーツのその男、人が思うより本人が意識してしまう怪しさである。
テクテク テクテク
歩く歩く
さすがに20km、Ezナビウォークでの進捗がなかなか進まない。
遠いぞ20km...
マラソンで42.195kmを2時間20分位で走るランナー、驚異的だなと思いながら、前後の視界に車がいないときを狙って小走りしてみる。こんな時間に、カバンを持ったスーツ姿の走る姿は.....あまり見せたくないの〜、とその男は思った^^
テクテク テクテク
歩く歩く
途中セブンイレブンと24時間営業サニーで水分補給をして
テクテク テクテク
歩く歩く
革靴でこの距離はきついな...
非常時のためにスニーカーが必要だ...こういう事態に備えてカバンに入れておかねばならんな...
などと非現実的なことを考えながら
テクテク テクテク
歩く歩く
2時間を超えたあたりから、その男は歩くのが飽きてきた(笑)
主要道、新たな発見があるといってもそれほど代わり映えのするルートではない。
停まる気配すらなく追い越していくタクシー、「ひょっとして?」と商売しようという気はないかな?...などと疑問を投げつつも、小さくなる天井のライトを見送りながらこのローカルなところをけっこう走っているものだ...
と感心するその男。
そして、ここまで歩いたからには、今さらタクシーなんぞ九州男児としては許されん!
と意味の分からない闘志を燃やし
テクテク テクテク
歩く歩く
テ..ク..テ..ク.. テ..ク..テ..ク..
歩..く..歩..く..
やっぱり、駅で仮眠すればよかったか
その男は次第に重い足取りとなり、ペースが落ちていく...
が、もう先が見えている。
Ezナビウォークが示した到着時間通りだ。
テ...ク...テ...ク テ...ク...テ...ク
歩...く...歩...く...
つ...い...た...
その男、柳川から歩いて久留米の自宅まで帰ってきた。
3時間30分の道のり。
無意識のうちに止めたであろうアラーム。
僅か数分の気の緩みが、リカバリーに3時間30分を要することとなった。
40分程寝て帰る予定が、3時間30分も睡眠時間を減らすとはえらいことである。
その男は決心した。
これからは、飲んだときは座らずに立って帰ろう...
失敗から得た教訓である。
PS.でも、語れるネタができて、この出来事には大変満足しているその男である。
(記事内、Mapionの地図をお借りしました)